月の記録 第31話


「何!?それは本当か!?」

少し離れた場所で後ろを向き小声で話していたジノだが、あまりの内容に声を荒立てた。皇子も魔女も、セブンもジノに視線を移す。その後幾つか会話をした後、ジノは通信を切り、足早にルルーシュ元へ向うと跪いた。

「ルルーシュ様、緊急の連絡が入りました」

今の流れでそれはわかっている。
ルルーシュは、さっさと話せとジノに視線だけでで命じた。

「・・・今朝出立いたしました、あの屋敷が襲撃されたようです」
「ほう、あの下品な連中の屋敷が」
「被害状況はまだわかっていませんが、死者も出ているようです」

襲撃があったのは1時間ほど前。
銃火器を持ち武装した者たちが押し寄せてきたという。

「確認に行けとでも言われたか?」
「いえ、申請していたルートは危険なので、別のルートで戻るようにと」
「ちょうどよかったじゃないか、すでに別ルートだ。それに、本来であれば明後日まで滞在する予定だったのだろう?さっさと引き上げて正解だったな?」

C.C.はだらしなく寝転がりながら言った。
今居る屋敷は本来のルートからかけ離れた辺境だし、この屋敷の所在はシャルルとマリアンヌ、そしてここにいるものしか知らない。
もしここで襲撃を受けたなら、内部に手引きをしている人物がいる事になるが、既に出立し、ここまで移動してきているというのにあちらに襲撃犯が向かった時点で、内部に敵はいないと見ていいだろう・・・連絡が取れなかった場合を除いて。

「最近は物騒になったものだな」

ルルーシュは既に興味を無くしたのか視線を本へ戻した。

「皇族を狙った犯行、と考えたほうがよろしいかと」

ジノは厳しい表情でそう告げた。
既に皇室はその方向で動いており、現在までに組まれている公務の大半を取りやめ、よほどの理由が無い限り皇族はペンドラゴンの外に出る事を禁止し、今帝都を離れている皇族も、急ぎ戻るよう通達もあったという。

「さて、皇族を狙ったものなのか、あるいはルルーシュ、お前を狙った犯行なのか」
「俺を狙っているなら、戻るまでの間に接触がある可能性はあるな。魔女、お前どうせ暇だろう?どうだ、ペンドラゴンまで遊びに来ないか?」
「この私を護衛に使う気か?いい度胸だなお前」
「無駄飯ぐらいの不死身女はいい盾になるからな」
「まったく、相変わらず口の悪い男だ。まあ、そうだな。久しぶりにマリアンヌに会うのも悪くない。何年ぶりになるだろうな、あいつに会うのは」
「俺がお前と最後に会ったのは10歳の頃だったと記憶している」
「そうか。そう言えば、お前大きくなったな。前に会った時はこのぐらいだったか?」

寝転がりながら、C.C.は手を子供の背丈ぐらいまで上げた。
恐らくはルルーシュの腰ほどの高さ。大きくなったな?で済ませる変化では無いと思うのだが、魔女の感覚は人とずれているのだろう。そもそも皇子と魔女の会話に入れる者などいないのだが。

「まあ、そんなものだろう。お前と違い、俺は成長するからな」
「そうだな、人は皆時の流れに合わせて成長し、やがて年老いて私を置いて逝く。ルルーシュ、お前はせめて100歳ぐらいまで生きてみろ」
「お前のような化物と一緒にしてほしくはないな」
「美女相手に化物か。本当に口の悪い男だよ、お前は」
「自分が何百年生きたかも忘れた年寄りが、よく自分を美女といえるな」
「美女だろう?なあ?私は若く美しいだろう?」

二人の会話に困惑しているスザクとジノに、身を起こしたC.C.はくつりと笑いながら、美しい新緑の髪をかきあげた。シミ一つない透き通る肌と、なめらかで柔らかそうな肢体。輝く黄金の瞳は魅惑的で、誰が見てもこの少女を美しいというだろう。

「数百年・・・ま、魔女様はそれほど長く生きておられるのですか」

聞き逃せない言葉に、ジノは驚きの声をあげた。

「なんだ、本当に私を知らないんだな、お前たちは」

まあ、玄関先でのやり取りで予想はしていたが。

「知るはずがないだろう。お前の存在は、代々皇帝となったものとその側近だけが知るブリタニアの最高機密だ。現在のラウンズでいうならばナイトオブワン、そして元ラウンズである母マリアンヌだけが知る存在。俺たちは母に会いにアリエスにやって来たお前とたまたま会っただけにすぎない」
「そう言えばそんな感じだったな。そんな私をこいつらに見せて良かったのか?」

両の手で数えられるだけの人間しか知らない、秘匿された存在。
もしかしたら、ブリタニアが強者として君臨しているのは、この魔女の存在があるからなのかもしれない。

「緊急時にはここを使えと言われていたから問題はないだろう」
「まあ、お前達が来るかもしれないという話はシャルルから聞いてはいたが・・・あいつももう年だからな、信頼できる若い騎士と顔合わせをさせたのかもしれない。ルルーシュ、あれも小さな頃はものすごく可愛かったんだぞ。くりくりとした大きな目と、ふわふわの長い髪でな、そう言えばナナリーにどこか似ていた」
「・・・信じられないな」

あの厳つい皇帝が、物語に出てくるお姫様そのものと言っていいほどの愛らしさをもつナナリーと似ている・・・。父親なのだから似ている所があるのは当たり前だが、あまりのギャップに、皆が耳を疑った。

「写真ぐらい残っているんじゃないか?今度見てみるといい。それと、だ。もしその愚か者たちがお前に危害を加えるため動いているならば、2・3日ここで様子を見るのも手だと思うが?」
「どうしてそう思う?」
「お前たちは予定より早く出立した。順当に進めば、帝都に戻るのにどれぐらいの時間がかかるのか、相手だって当然計算してくる」

待ち構えているのがわかっているのだから時間を空けたほうがいい。食料があるなら、ペンドラゴン側からの増援が来るまでおとなしくしているのが得策なのだが。

「だからこそ、予定通りに帰るんだろう?相手に動いてもらうために」

自分を囮にして首謀者を引きずり出す。
その発言に周りはざわめいた。

「おやおや、私という盾を手に入れた途端に強気になったか?」

いかに魔女とて、完璧では無いし無敵でもない。
出来ることと出来ない事がある。

「リスク無しで釣れる相手とは思わないからな」
「止めておけ、<無能>で<お飾り>のお前がすべきではない」

あざ笑うかのように強調された言葉に、ルルーシュの柳眉が寄った。
これは、怒るだろう。
気難し屋な皇子の癇癪が始まる。
そう誰もが身構えたが、予想は大きく外れルルーシュは大人しかった。

「・・・それもそうだな、無謀な賭けは止めておくか。俺は命が惜しい」
「そう、それが正解だ、ルルーシュ」

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